トヨタの急速充電器設置──数よりも“質”が問われる時代へ?

目次

1.トヨタディーラーに広がる急速充電インフラ

2025年6月時点で、トヨタディーラーにはおよそ500基の急速充電器が設置されている。
そのうち出力100kW以上の高出力器は全国で138基(150kWが106台、100kWが32台)。
まだ限定的ながらも整備が進んでいる。

ディーラーの充電器は「EV・PHV充電サポートMembersCard」専用であり、e-Mobility Powerのカードが使えないのは興味深い点だ。
レクサス店舗では黒塗りの外観でブランド統一が図られており、出力は50kW機が中心。
全体として出力や仕様の統一感は見えにくい状況である。

2.当初の「全店舗設置」構想とのギャップ

トヨタは2021年、「2025年までに全国約5000店舗に急速充電器を設置する」と発表していた。
しかし、現在の目標はその1/10となる500基。

これは、トヨタの開発力をもってしてもEVの開発が想定以上に難しく販売できる車がなければインフラは必要なかった。
実際、50kW以上の高出力器を後付けするには高圧受電設備(キュービクル)が必要で、
そのコストや設置スペース、契約電力の問題が障壁となっている。

都市部では設置スペースの確保が難しく、
電力契約容量の増加によるコスト上昇もあり、
費用を販売店が負担する事になり費用対効果の面から導入が進みにくい事情もあると考える。

3.戦略転換:「設置台数」から「最適配置」へ

トヨタ広報は「設置数目標に固執せず、需要や利用実績に基づき整備を進める」とコメント。
つまり“数の競争”ではなく、“使われる場所に最適な設備を置く”という方針に転換した。

EVがまだ主流車になりきっていない現段階では、
この“選択と集中”は合理的な戦略といえる。
ただしユーザーから見れば、出力・利用方法の違いが不透明で「トヨタの充電インフラはどうなっているのか」と感じられる部分もある。

現状は地域の販売店の判断で導入する方針なので様々な検討を行う時期にあることは確かだ。

4.次に問われるのは「エネルギーの使い方」

トヨタが今後見据えるべきは、単なる充電スポットではなく、
エネルギーを「蓄え・融通する」拠点への進化だ。

10年以上前から言われている考え方ですが、とりあえず太陽光・蓄電池・V2Hなどとの連携により、
平時は自家消費や店舗運営電力として活用し、
災害時は地域への電力供給拠点として機能する。

こうしたエネルギーを最適化していくインフラ設計は、ウーブンシティの実証や検証が終わる前にでもトヨタがディーラー等ですすめるべき領域だと思える。

5.次回予告

後編では、ディーラーを「地域のエネルギーハブ」として再定義し、
充電インフラを「社会インフラ」として位置づける視点を紹介する。